響きに対する感度をUPする
和声聴音の意図は、重なった音の響きへの関心を高めることです。
メロディーラインは時間の流れに沿って広がるものですが、和声の響きは同じタイミングで縦に厚み(階層)を感じることなので、音楽の基礎力として演奏上にも大きな影響を与えます。
ピアノを学んでいる人は、10本の指を使い、この和声の響きを創り上げていますし、旋律楽器の人はアンサンブルなどで他の人と一体になって響きを創り上げることになります。
そのため、TPSでは和音聴音の目的としては、自分の出している音の響きを流れとして捉える(メロディーライン)だけでなく、重なった音の厚みや響きのバランスまで聴き取る(縦の重なり)感度を育てること をめざしています。
ところで、実際に和音聴音の指導では、初めから「3つの音=和音」を生徒さんに覚えてもらい、その識別を的確にすることを当面の目的として行なう方法が多いのです。たしかに年齢の低い耳の感受性が敏感な時期にこのようなトレーニングをすると、ピアノだけを長く習っていた人よりは和音に関する感度は鋭くなります。
ただしこういうスタートを始めた場合、基礎的な和音が識別できたのちにはこのスキルをどのように発展・応用させていくかを考えておかないと、和声的な感性を実際の演奏に役立てるときには別の知識やスキルも必要になってくるケースをいくつも目の当たりにしてきました。
単なる和音の音当てにとどまらず、和音の響きを演奏のなかでどのように位置づけるかというような本質的なものも同時に伝えておかないと、せっかくつけたスキルも十分に活用できないのではないかという推論にたどり着きました。
そこであえて3和音の音型を数多くおぼえるやり方から、離れてみることに挑戦しました。
和音聴音第一段階:重音(2つの音)の関係性に意識を向けること
TPSにおける和音聴音の出発点は、2つの音の関係性を理解することです。
具体的に言えば
- 2つの音の離れ具合
- 2つの音の上下関係
- 聴き慣れた音程と特殊な音程のちがい
このようなところから始めます。
これらの項目は、普通のやりかたの和音聴音でどこかの段階で苦手意識を持ってしまった人が、良く陥ってしまうミスのパターンそのものでもあります。TPSでは何人もの受験生を引き受け、限られた期間内で弱点克服を重点的におこなってきた結果、このようなミスを放置したままでいるといっそう混乱してしまうことに着目したのです。
↑市販の「和音カード」の一例
例えば
- 3和音のうち、真ん中の音をよく間違えてしまう
- 4声体でどの音が重なっているのか聴き取れない
- 七の和音において転回形や省略(3音のみ)になると途端にわからなくなってしまう
- 幹音以外、特に変化音の多い和音では、変化記号のついている音を間違えやすい
このような症状をいくつも併発したままでは受験において正答率を上げることはかなり難しくなってしまいます。
そのうえ、このようなミスをしてしまう人はピアノ演奏においても和音の響きに関心を持たず、せっかくのデリケートな和音の移ろいにもそっけない弾き方をしてしまう傾向がありました。おそらく実技の先生からは「もっと和音を感じて!」とか「表情豊かに弾きなさい!」とかの指示をされているのでしょう。ところが、その原因が和声への関心度の低さにあるとは生徒さん本人もほとんど気づいていないのです。
これではせっかくトレーニングしてきた耳の良さが生かされていませんね。
続きは近日中にアップします。
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