◎旋律聴音指導の進め方
◎旋律聴音 |
1 導入 |
2 基礎から応用 | |
3 課題づくり | |
4 リズムに関して |
1導入:5線に慣れる
導入期は 5線に慣れること を主眼とします。
始める生徒さんの年齢にもよりますが、5線の幅は大きめのものから使います。
上記のような1ページに1段のみの5線ノートもあります。
(1)線の間(間)に〇(音符の玉)を描くことから始めます。
2本の線に挟まれた場所として4か所、
追加で最下段のぶる下がり箇所、最上段の上乗せ箇所 も付け加えます
(2)次に 線上(線)に〇(音符の玉)を描くことをします。
5本の線上に5か所
追加で下の加線と上の加線も付け加えます
★この段階ではまだ 音部記号は無しです。お子さんの作業の様子をよく観察しましょう。
上下の線に合わせてバランスよく〇を書き込めるかどうかを見ます。
小さすぎる〇や、はみ出す〇を書く子もいます。
上手に配置できるようになったら先へ進みます。
(3)ここでやっと音部記号を教えます。
ト音記号を破線で描き、なぞり書きしてもらいます。こういうなぞり書きの練習ワークもありますが、先生が目の前で書いた方が、子供達へのインパクトは強いようです。
※ト音記号の「ト」の位置がわかるように書いてください。
次にヘ音記号も同様のやり方で教えます。
※ヘ音記号の「へ」の位置がわかるように書いてください。
それぞれ、一段分ぐらい、なぞり書きからひとりでも誘導なしで書けるように練習させます。
★この段階でもしもうまくマネができない場合は”ビジョントレーニング”が必要なお子さんかもしれませんので、ここでも注意深く観察します。
(4)高音部譜表(ト音記号)と低音部譜表(ヘ音記号)に、今度は線、間の両方の音符を音階どおり
横並びに書き込んでもらいます。この時、線、間の順番がいつの間にか飛ぶ子もいます。丁寧に書かせてください。
高音部譜表では下から上行進行に音符をおいていきます。この時下部加線の音(ド)からスタートしてもかまいません。
低音部譜表では上から下行進行に音符をおいていきます。この時上部加線の音(ド)からスタートしてもかまいません。
※TPSではピアノの導入期にも早い段階から大譜表の楽譜を使いますので、低音部譜表も高音部譜表と一緒に聴音領域でも扱います。
お分かりのように導入期には、音名を同時に伝えることはしていません。
音名と5線上での位置に関してはワークなどを用いてもこの先たくさんできるので、まずは5線上のどこに音符があるかを認識することだけにポイントを絞っています。
導入期のさらに詳しい内容を知りたい方はこちらへお問い合わせください。
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2:基礎編
基礎編でのポイントは次のようなことです。
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使う音をむやみに増やさない。はじめは3個から5個程度の音を使う。
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リズム、拍子はリズムカードとの併用で進める。
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単音の音当ては新しい音を増やすときぐらいに留める
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「書き取り」のスタートは 「まねしてうたう」 から
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ドレミ唱の前に、ハミングで確認
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5線に書いた音は必ずピアノで弾いて聞かせ、ドレミで歌わせる。
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内容的な進度は、ソルフェージュを「書き取り」より先行させる。
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書くことができるから 読める⇒歌える⇒弾ける へ進化
☆はじめは3個から5個程度の音を使う。
初心者はのどを使う練習がまだできていないので、歌える音域に限りがあります。
「書き取り」の時にも TPSでは必ず歌います。
使う音の数を少なくしておきますが、続けて聴く音の数(拍の準備)は4個位まで増やします。
- 最初は1つ聞かせてすぐに答えさせる(まねして歌う)
- 単体の音で2つの音の違いを聴き取れているならば、今度は聞かせる音を2個続けます。
- 聞かせる音を3個続ける
- 聞かせる音を4個続ける
※上記2からは識別での個人差が出てくるところです。
AとBの音を使って組み合わせていきます。
- 2個の組み合わせでは AA、AB、BA、BB ができます。
- 3個の組み合わせでは AAB、ABA、BBA、BAB、ABB、BAA と組合わせが豊富になりますね。
- 4個の組み合わせでも、同一音の数を増やすところから始めます。つまりAAABとかABAAとかです。全ての組み合わせをここでは書きませんが、相当な数になりますね。
子供達は順応性が非常に高いので、音の聴き取り作業でも無意識にうちに単純なパターン(音の出てくる順番)を察知してしまいます。
ですから指導者側が単調なパターンを用いていると、聴き取りがパーフェクトだと誰もが思い込んでしまう傾向があります。
ところが同一音が連打されると、それを認識できずミスする子が出てくるのです。これで集中力や認識の精密さがわかります。
子供達は{3個も同じ音は出ないだろう}と思うのかもしれません。
また、不思議そうに「先生、またおんなじ音だよ!?」と問いかけてきたり、「かんた~ん!」と嬉しそうに答える子等、反応は様々です。
このような意表をつくことが子供達にとって一種のゲーム感覚になり、注意して音を聴く(集中する)訓練になります。
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☆「書き取り」のスタートは 「まねしてうたう」 から
まずはピアノの音をまねして歌います。
※音名のみを答えるのではなく、必ず正しい音高をつけて歌わないと意味がありません。
- 前述の聴き取りの時から「まねして歌う」を習慣づけます。のど(発声)のトレーニングがすでに始まっています。
※必ず、出せる高さの音を聴かせる必要があります。使用する音を3~5個に限定しているのもそのためです。
子供達が出しやすい高さの音はこの範囲です。
ヘ音記号の【ラ】からト音記号の【ミ】までの音(高めの音が出にくい場合)
又は
ヘ音記号の【シ】からト音記号の「ソ」までの音(6個になりますが5+1で追加してください。高い音も出やすい子の場合)
※ヘ音記号の【シ】の音は意識的に初めから入れます。【ド】の音がすべての始まりではないことを理解してもらうためです。
【シ】の音は【ド】より低い音ということで判別は易しいことが実証されています。
もし、迷われる場合は、ピアノの大譜表導入期に出てくる音を参考にしてください。こうしておくとピアノ譜との関連付けが楽です。
このような音の扱い方は、音階を中央ドから上方に5個、中央ドから下方に3個 で理解させる狙いがあります。
1オクターブを音階どおりに歌わせるのは、子どもたちののどが未開発のうちは無理なのですが、このように中央【ド】の音の上下という形でも音階の理解が十分できることが実証済みです。
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☆ドレミ唱の前に、ハミングで確認
ハミング、ドレミ唱、独音名唱の何を使うかは、その場の状況に応じて選びます、
難易度は
ハミング<ドレミ唱<独音名唱 です。
聴いた音がわかる段階を3段階にチャンクダウンしています。
ドレミで歌えるのは音がわかっているからですので、分からない時には音名なしでともかく同じ高さを歌わせます。
そしてわかっている音を足掛かりにして考えるよう導きます。
知っている音より高い音なのか?
それとも低い音なのか?
ここが音感教育の(特に初期から基礎での)一番大事なところです。
この段階であてずっぽうで答えることや、考えずに作業することをおぼえてしまうと、このクセを取るのに相当な時間がかかります。
音の聴き取りは心理的な背景も影響しますので、体調の悪い時や疲れている時、眠い時などはガクンと能力が落ちます。
なによりもお子様の様子を観察しておこない、ムリをしないことが大前提です。
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☆リズム、拍子はリズムカードとの併用で進める。
聴音の学習の前段階としてリズム遊びなどで、すでにリズム関連の模倣もしています。
リズムカードは市販のものではなく、オリジナルで作ります。
新しいリズムパターンをおぼえるとき、子供達自身には「単語カード」に書いてもらいます。
教室では、はがき程度の大きさの厚紙などに、レッスンで使ったリズムパターンを1枚ずつ書いておきます。
もし、歌えているのにリズムが書けない時は、このカードのどれに当てはまるかを考えてもらいます。
いわばお助けグッズです。
※正しいリズムカードを探し出す作業は、自信のない子にはずいぶん気持ちが楽なようです。
なかなか選び出せない時は消去法で絞り込みますが、一枚一枚リズムを叩いて検討してみます。
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☆単音の音当ては最小限にし、音の流れを聴く習慣
2個以上の音を一小節分の音楽の流れとして、記譜作業をします。
休符も入りますので、拍を意識しなければなりません。
拍を叩くのは左手で、拍子に合わせて指を使います。
左手で拍を刻みながら音を聴きます。
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☆内容的な進度は、ソルフェージュで先に学習しておく
歌った音(=聴き取った音)を記譜します。
ソルフェージュでもすでに譜面を見て歌ってあるような音の流れなので(同一にはしません)案外簡単に記譜できます。
レジスター(音域)を正しくとらえているかどうか がわかります。
この記譜の場面で時に助けになるのが、実際に書く音を声で歌っているということです。
音名を答えているだけでは、このレジスターの問題(音域を正しく認識できること)が理解しづらいのです。
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☆5線に書いた音は必ずピアノで弾いて聞かせ、ドレミで歌う。
書き終えたら、自分の書いた譜面を読みながら音高をつけて歌います。
次の小節に移ります。
4小節書けたら、初めからとおして「見直ししながら」歌います。
これらのプロセスの中では、各場面での確認意図(目的)があります。
まねして歌う=聴こえの確認、記譜=筆記作業で知識確認、書いた譜面を歌う=視唱
とおして歌う=記譜上のチェック
慣れてくればスラスラ作業が進んでいきます。
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☆書くことができるから 読める⇒歌える⇒弾ける へ進化する
行動分析的に言うと、言語化するとは「行動」だそうです。
書いた譜面を読む場面では、脳の中では
音名を読み取る、左手で拍を刻む、音高を正しく歌う、記憶上の音楽も再生している
これらの作業が同時進行で行なわれています。
特に子供さんの場合には、ほんの少しの経験時間でこれらのことを難なくマスターしているのです。
大人から見ると、とても難しく見えますが、きちんと定着してスキルになるのです。
TPSの聴音での作業の流れは、行動分析学でのチャンクダウン、スモールステップの積み重ね、順行チェイニングなどと非常に近いプロセスになっていました。
子どもたちが楽に進んでいけるよう考え出したプロセスは、行動分析的にも正しい方向だったようです。
続きは≪聴音指導法 基礎編1≫へ
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